あかりちゃんがんばる! 番外編

その7「登校戦線異常アリ?」








「ふぅ……」

「おはよう、ひろゆきちゃん」

「あ、ああ」

 起きるなり、だかだか走り出して何か用を足しに行った浩之ちゃん。
 戻ってきた時には、何か落ち着いてたけど。

「ところでひろゆきちゃん、きょうもはやいのね」

「あ、ああ……ちょっと事情が、な……」

 浩之ちゃんは、苦い顔をしながら。
 起きた途端に嫌そうな顔をして、お風呂場に駆け込んでたみたいだけど……
一体どんな事情なんだろ?

「2日続けてかよ……情けねぇ」

「なにがなさけないの?」

「お前の夢見たから、なんて言えねぇよ……」

「ん?」

「さ……さぁ、学校に行こうかっ!」

 む〜……また浩之ちゃんの謎が増えちゃった。
 研究材料が増えるのは、研究者として嬉しいことだけど……でも、隠し事は
何だか寂しいよね……。






 朝は、トーストと紅茶だったの。
 浩之ちゃんったら、私の分にマーマレードをたっぷり塗ってくれたの。
 太っちゃうかな? って思ったけど、折角だから2枚も食べちゃった。

「せんせいたちには、なんていうの?」

「……『家庭の事情』でいいだろ」

 そうだね。
 本当のこと話すわけにもいかないし……。

「ま、何とかなるだろ」

「うん」

 もぐもぐ……。

 ところで、何だか甘いものをやけに美味しく感じちゃうの。
 そういえば小さい頃って、甘いものばかり食べてた気がするね。






 時間はたっぷり、ゆっくりだよね。
 なんて思って食後にお茶なんか一緒に飲んでたら、結局いつもと同じくらい
の時間になっちゃって。
 慌てる程でもない時間なんだけどね。

「いってきまーす」

「きまーす」

 ばたん……がちゃり。

「いいか、お前はお子様なんだからな。そのつもりで行動するように」

「はーい、ひろ……おにいちゃん♪」

 ずるっ。

「あれ? どうかした、おにいちゃん?」

「い、いや。慣れないだけだ」

 冷や汗かいてるね。
 これからのこと考えて、ちょっと不安になってるのかな?

 ……きっと大丈夫だよ、浩之ちゃん。

 きゅっ……。

「お、おい!?」

「こどもらしく、するんでしょ?」

 手を繋いで歩くなんて久しぶりだよ。

 浩之ちゃんも、しっかり私の歩幅に合わせてくれて。
 いつもより心持ちゆっくり、学校へ向かうのでした。






「…………」

 あれ? 浩之ちゃん、難しい顔で時計を睨んで。
 今週は週番だったとか、忘れてたのかな?

「どうしたの?」

「……このままお前に合わせてたら、間違いなく遅刻するぞ」

「ええっ!?」

「仕方ねぇ……」

 ううっ、ごめんね。
 私がお子様なもんだから、全然歩幅が足りないんだよね。

「ひろ……」

 浩之ちゃん、普通に歩いていいよ。
 そう、言おうとしたら。

 ひょいっ。

「きゃっ!?」

「少しの間、我慢しろよ」

 だだだだだだだっ!

「んきゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 浩之ちゃんは、私を脇に抱え上げ。
 返事をする間もなく、走り出したのでした。












 それからはもう速かったの。
 何とか校門前に着いて、私を下ろしてちょっと一息。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「こ……こわかったよぉ……」

 け、結構スリル満点だったね。
 浩之ちゃん、あんなに速く走らなくてもいいのに……。

 曲がり角でも減速しないし、段差はぴょーんってジャンプするし。
 少しは抱えられる方の身にもなってよね。

「あ……」

「ん? どうした、あかり?」

「す、少しちびっちゃった……」

「……悪ぃ、恐かったか……」

 ううっ、この歳になって何て恥かしい……。
 しかも浩之ちゃんに……。

 でも、負けないもん!

「こっ、こんなこともあろうかと……」

 ごそごそっ。

「そっ、それはっ!?」

「ふふふっ、おきがえせっとなの」

 身体が子供である以上、今みたいな不測の事態は避けられないもんね。
 備えあれば憂いなし、って言うのかしら。

「……ひろゆきちゃん、ちょっとわたしをかくして」

「お、おう」

 私達は昇降口には行かず、校舎裏の人気のないところに。
 体育倉庫の陰まで移動して。

「ここなら、みられないよね」

「い、急げよっ」

 浩之ちゃんは、制服を脱いで。
 それで私を包むように隠してくれたの。

「ちょっとまっててね……」

 ごそごそごそ。

 やん、冷たい……ううっ、恥かしいよぉ……。

 ごそごそごそ。

 ううっ、今浩之ちゃんに見られたりしたら……私、恥かしいよぅ。
 えーっと、汚れちゃったのはこっちに入れて……っと。

 ちくんっ!

「いたっ!?」

「あかり、どうしたっ!?」

 何かが、お尻に……あ、木の枝が。

「うえきのえだが……ささったみたい」

「大丈夫かよ……赤くなってるぜ、そこ」

 後ろを向いて、痛いところを見てみると。

 ……本当、血は出てないみたいだけど。
 もう、どうしてこんなところに枝が出てるのかしら?

「だいじょうぶ、きずはあさいわ」

 気を付けなきゃ。
 と、私は前を向く。

 …………。
 って。

「……ま、真っ白つるつる……」

「……いやぁぁぁっ!」

 み、み、見た? 見たの、浩之ちゃんっ!?
 しかも『つるつる』って、どこまで見たのっ!?






 ぺたん……。

「う、ううっ……わたし、およめにいけない……」

「だ、大丈夫だって! 全然オッケー、綺麗だったぜっ!」

 そ、それフォローになってないよぅ……。

「……ヒロぉ、何やってんのよ?」

「げっ! 志保、どうしてここにっ!?」

「どうもこうも、女の子の悲鳴が聞こえたから……」

 み、耳ざといのね。

「で、来てみたら浩之があかりを襲ってたってワケね」

「襲ってねぇ」

「でも、その状況じゃ……どう見たってあんたは変質者よ」

「が、がーんっ!」

 ……ううっ、早く下着履かなきゃ。

 いそいそ……。

「ち、ちがうのよ。これにはわけがあって……」

「……もしかして、あかりが誘ったクチなの!?」

 ……え?

「『浩之ちゃん、こういうの……好き?』とか何とか言って、幼い身体の隅々
まで曝け出して……ああっ、これは一大スクープよっ! 平和な学園に蔓延る
不純異性交友、しかもロリっ!!」

「しほ……いいかげん、おこるよ?」

「……ごめん」

 もう、誘うような勇気があれば苦労しないよね。






<続くんだよ、浩之ちゃん>
<戻る>