単発らぶらぶ小説 その58

ぷりーづ・めいくみー・どれすどあっぷ








「うーん、困ったわねぇ……」

「ん? どうしたの、アスカ?」

 開け放たれた入り口の前をシンジが通りかかったところを狙って発した言葉
は、いとも簡単に見事なフィッシュ。
 にんまり笑いそうになるのを必死に堪え、アスカは手にしたハンガーを彼に
向けて差し出した。

「明日のデートに着て行く服なんだけど、どれにしようか迷っちゃって……」

「これでいいんじゃないかな?」

 シンジは、壁にずらりと並べられた洋服の中からあっさりと1着を示す。
 しかしアスカのいじけたような視線に気が付き、その人差し指は部屋の中を
ぐるぐる彷徨い始めた。

「ああっ、でもあれも似合いそうだなぁ……うん、アスカが悩む気持ちはよく
わかるよ」

「でしょ? アタシ1人じゃ決められなくて、だからシンジと一緒に選べたら
いいなぁ」

 げんなり顎が落ちそうになるのを必死に堪え、シンジは手にしたペンペンの
餌を背後に放り投げた。

「こんなに数があるとね……でもアスカって、何着ても似合うでしょ? 別に
悩まなくても」

「シンジの馬鹿ぁ、アタシはシンジが選んでくれた服を着てデートしたいの!」

 なら最初からそう言えよ、とは床に落ちた餌を拾い食ったペンペンの言葉で
あるが2人の耳には入っていなかった。

「アスカ、本当に僕が選んでもいいの?」

「勿論よ。さぁ、アタシをシンジ色に染めて!」

 シンジは感激しながら頷くと、部屋中に広げ並べられた服には見向きもせず
にタンスの前に移動した。

「へっ?」

 何故か迷うこともなく、シンジは下から2段目と3段目の引き出しを漁る。
 そして1分もかからずにシンジが掘り出した『服』を見て、アスカは言葉を
失った。

「えーと、まずこのスクール水着。次に体操服とブルマ、その上に制服を」

 至極自然にそれらを差し出され、アスカはついつい受け取ってしまった。
 チョイスした服の内容に付いてとか、どうしてこれらをしまってある場所を
知っているのかとか重ね着すると汗がだくだくになっちゃうとか。
 突っ込みたいことは山程あったのに、アスカは幸か不幸か彼の満面の笑みを
見てしまった。

「う、うん……わかった。ちゃんと着るね」

「よかった、アスカも気に入ってくれて。じゃ、明日楽しみにしてるよ!」

 しゅたっと元気に手を挙げたシンジに、これまたついつい同じ挨拶を返して
最後のチャンスを逃してしまったアスカ。

「…………」

 るんるん浮き足立って去って行くシンジの背中と、手中のどうにもコメント
し難いものとを交互に見つめる。
 シンジの背中が見えなくなると、アスカはちょっと溜め息を吐いた。

「はぁ……ま、いっか」

 アスカはそれで気分を切り替えたのか、いそいそと姿見の前に立ってみる。

「……うん、これはこれで結構可愛いわよね」

 ブルマをかざしてみたり、スクール水着を身体に当ててみたり。
 順番まで指定されたのはどう言うことだろう、そう言えば順々に脱がすこと
が出来るような気が……とか何とか考えて、アスカは1人で頬を染める。

「……うん、これはこれで」

 なかなか嬉しそうな笑顔を浮かべると、部屋の時計はそろそろ真夜中。
 机の上に綺麗にたたんだ制服達を並べ、何故かどきどきしながらバスルーム
へ向かう。
 『明日は早起きしなきゃ』と小さく呟いて、でもどうにも落ち着かない様子
で胸にそっと手を添えるアスカなのでした。






<続きません……単発だし
<戻る>