絶対装甲エヴァ 第3部

第31話「お出かけは日曜日! 前編」








 ちゅちゅん、ちゅん、ちゅん……。

「ふぁ……朝か」

 時計を見ると、7時。
 と言うことは、そろそろ。

 だっだっだっだっだ!

 複数の人間が階段を駆け登ってくる音が聞こえる。

 ばたん!

「シンジ! 起こしに来たわよ!」

 アスカだ。

「ふっ……今日も負けてしまったようだね」

 これは、カヲル君。

「……明日からは、もっと早く起こしてしまおうかしら……」

 そして、綾波だ。

「……おはよう、みんな」

 それが最近の僕の朝の挨拶。
 何故かは知らないが、この3人が毎日先を争うように僕を起こしに来るのだ。
 お陰で学校に遅刻するようなことはないけれど、日曜日までやられたんじゃ
ゆっくり寝てる暇がないよ。

「お、おはよう。シンジ」

 観察した結果によると、その日の勝者が朝の挨拶を交わすことになっている
らしい。ここのところ、ずっとアスカだけど。

「うん。おはよう、アスカ」

「アンタ、最近アタシ達が来る前に起きてるわね?」

「うん……みんなが来ると思うと、何故か目が覚めちゃって」

 ちっ。

「え?」

「あ、ううん。何でもない」

 今、アスカが舌打ちしたように思ったんだけど……。

「さ、シンジ。出かける準備しよ」

「う、うん」

 そして僕は布団から起き出した。






 最近、シンジと全然いちゃいちゃ出来ない。
 アタシが心配してた通りの事態になってしまっているの。
 レイとカヲルが連合軍を組んでいるせいで、アタシは近頃押され気味。
 もしかして、このままずっと……?

「嫌よ! そんなの!」

「へっ!? ご、ごめん。やっぱりママレードにするよ」

 シンジはそう言って、ブルーベリージャムの瓶を置いてママレードの瓶を手
に取った。

「……あれ?」






 日曜日の今日は、久々に2人きりでお出かけ。お邪魔な奴らも付いて来ない
しね♪
 さすがに簀巻きにされて押し入れに叩き込まれれば、あの2人と言えど……
くふふ。

「ねぇ、シンジ!」

 アタシはシンジの腕を取り。

「な、何?」

 シンジったら、顔を赤くしちゃって。
 毎日してるのに、全然慣れないんだから……。

「ん〜ふふ、何だと思う?」

 今日のアタシは一味違うわよ。

「えーっと……わかんないや」

「……こうよ!」

 ちゅ☆

「わ、わわっ! アスカ、突然何を……?」

「……だってぇ。ここんところ、ず〜っとあいつらが一緒だから。アタシ達が
2人きりになるなんて、滅多にないじゃない?」

「うん……まぁ、そうだけど」

「だ・か・ら! 今日はた〜っぷりと甘えさせてもらうんだから!」






『ねぇシンジ、アンタは何にする?』

『う〜ん……』

『アタシは、ラズベリーアイス!』

『僕は……そうだな』

 ぐい。

『きゃ!?』

『僕は、アスカを……』

『んっ!? んむ……』

 アイスクリーム屋の店先だというのに、遠慮無しにアタシに口付けるシンジ。
 でも、アタシは周囲の視線は気にしていなかった。

『ん……んふぅ……』

 だってアタシには、シンジしか見えてないんだから……。






 ……なぁんて感じで、今日は軽く……。

 じゅるじゅる。

「アスカ、今日はどこへ行く?」

「え? う、うん。動物園なんかどう?」

 慌てて涎を拭き取るアタシ。
 よかった、シンジには見られていなかったみたい。

「そういえば、そろそろアイスの季節だね」

「って言っても、年中夏だけどね」

 そう。
 セカンドインパクト以降、世界……特に日本の気候は大きく変化していた。
 いつも常夏、真夏の国よ♪ 最も、そのお陰でいつもシンジが目のやり場に
困るようなちょっと派手な格好が出来るんだけどね……今日はお出かけと言う
こともあって、いつもよりは抑え目。
 でも、薄手に……その……のーぶら、なの。
 密着すると、ほぼ直にその感触が伝わるわけで。






 ぷにっ。

 先程から、僕を悩ませていることがある。
 それは、アスカ。

 ふにふにぃ〜っ☆

 恐らくわざとなのだろう、ぐいぐいと僕の腕に自分の胸を押し付けて来て。
 時々、ちょっと尖ったような別の感触もある。
 ……アスカ、もしかしてノーブラ!?

「あ、アスカ……あんまりくっつかないで欲しいんだけど……」

 僕がそう言うと、アスカは一瞬悲しそうな顔になった。

「そんな、シンジ……アタシ、傍にいると迷惑だった?」

「あ! 違う、違うよ」

「ううん、いいの。シンジがそう思ってるんだったら、アタシ……」

 泣きそうな表情になりながら、今まで抱きしめていた僕の腕を放す。

「ごめんね、シンジ。迷惑だなんて気付かなかったから……」

 目を潤ませ、少しづつ後ろに退がり。

「アタシ、帰るね。ごめん、もうくっつかないから……」

 幾粒か涙を零しながら、アスカは走り去る。
 ……ああ! 僕の考えなしの言葉で、アスカを傷付けてしまった!

「待って、アスカ!」

 僕は全力で疾走し、何とかアスカに追い着いた。
 アスカの両肩を掴み、僕の方に振り向かせる。

「えっ!?」

「アスカ、ごめん! そういう意味で言ったんじゃないんだ!」

「う、うん……」

 珍しく僕が追い着いたことに驚いているのかな?

「その、アスカがあんまり腕に……押し付けて来るもんだから」

「う、うん」

「だから、誤解しないで。アスカがいて迷惑なんてこと、絶対にないから」

「ほんと?」

 ぎゅう。

「う、うん」

「じゃ、いいよね? 腕組んでても」

 うっ……上手い具合にやられてしまった……。

「うん……」

 ふにっ。

 あ……ぼ、膨張が……。
 ……僕は溢れる劣情を抑えるのに必死だった。






 しっかし……まさか、シンジが追い着いて来るは思わなかったわ。
 あのまましばらく走って、人気のないところでこう……いい感じにしようと
思っていたのに……。
 でも、シンジがあんなに足が速いとは知らなかったわ。
 今日まで隠してたのね。

「ふふふ〜ん♪」

「アスカ、ご機嫌だね」

「そりゃそうよ。愛するシンジと一緒なんだもん!」

 そんな恥ずかしい言葉でさえ、平気で言うことが出来る。
 あの島での一件以来、アタシは遠慮なしに生きることに決めた。
 だって変に遠慮してて、レイややをい男にシンジを取られるのも嫌だしね。
 ヒカリに『じゃあ今までは遠慮してたとでも言うの?」なんて言われたけど
……失礼しちゃうわね。

「そ、そう? ありがとう」

 シンジ、以前と変わったみたい。
 どこが、って言われると困っちゃうけどね。
 何かこう……余裕があるっていうか、ぐっと大人っぽい雰囲気を漂わせてる
ような感じがして……。
 でも、シンジはやっぱりシンジ。
 そんなの気のせいかと思うくらいに、とってもボケボケ。
 ま、そんなところも好きなんだけど。

「感謝の気持ちがあるんなら、もっとアタシを見て」

「うん、いつも見てるよ」

「違う。ただ見るんじゃなくて、1人の女として見て欲しいの」

 あれからも時々キスをしてくれるくらいで、それ以上先には進展してないの。
 やっとシンジの悩み……秘密を共有して、シンジと同じ存在になったのに。
 アタシは、もっと深くシンジとわかり合いたいのに。

「そう言えば、最近可愛くなったね」

「そ、そう?」

「うん。前よりずっと」

 こんな言葉がたまに聞ける。前はそれこそ絶対に言わなかったのに。
 それとも言わなかっただけで、心の中では思っていてくれたのかな?

(それは、シンジのせいよ。シンジのことが大好きだから)

 アタシは、声に出さずに心で呟く。
 そう、恋する乙女は限りなく可愛くなれるものなんだから!

「…………」

 あれ?
 心なしか、シンジの顔が赤くなったような……。

「どうかしたの、シンジ?」

「え? ううん、何でもないよ」

 ……まぁいいか。
 それよりも、今はシンジと2人きりでいられる時間を大切にしないとね♪






 ……あー、びっくりした。
 アスカが念話を使えるようになったのかと思ってしまった。
 別にそれはそれで構わないんだけど……出来ればアスカにはそう言うことは
しないでいて欲しい。
 今更遅いかもしれないけど、アスカには普通の生活を……人間としての幸せ
な生き方を……。

 ぐっ……。

 アスカが掴まっている右腕の反対側、左手を握ったり開いたりしてみる。
 僕はあの時、確かに死んだらしい。少なくとも、この世界から存在が消えた
ことは間違いない。
 そして、甦った……エヴァ細胞による、再構築によって。
 僕を帰してくれたのは、幼い頃に死んだと思っていた母さん。
 そのお陰でアスカや綾波を守ることが出来た……でも、ここにいる僕は一体
何者だ?
 エヴァの細胞が、コアの情報を基にして創り出した『モノ』じゃないのか?!

 ぐっ……。

 後でリツコさんに聞いた話だと、僕の細胞はDNAのレベルで再構成されて
いるそうだ……エヴァの細胞や、そのコアに取り込まれた人々……色々な要素
が絡み合って『僕』が出来あがっている。
 つまり僕は『僕』であって、『僕』ではなく。
 既に以前の僕ではないのだ……。

「こら! 何暗い顔してるの!?」

 顔を上げると、目の前に怒ったようなアスカの顔。
 気が付かないうちに、下を向いて歩いていたらしい。

「このアタシが一緒にいるっていうのに……何なのよ、その態度は!?」

「ご、ごめん」

「罰として、今日は1日中このまんまだからね♪」

 そう言って破願するアスカ。
 ……いつも、アスカは明るい。
 僕がこんな風に落ち込んでいると、いつも元気付けてくれる。
 僕には、アスカの笑顔が1番の薬なのかもしれない……。

「うん。いいよ」

「ば、馬鹿。そんな嬉しそうにしたら……罰にならないじゃない」

「だって、嫌な顔は出来ないよ。アスカが傍にいてくれるんだから」

「も、もう! シンジの馬鹿!」

 アスカが顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまう。だが、それでも僕の腕
は離さないアスカ。
 僕はそんなアスカを眺めて、心に何か暖かいものが広がって行くのを感じて
いた……。






<次回予告>
 己の存在に疑問を持つシンジ。
 だが、その心もアスカの存在によって癒されて行く。
 日常と思える時間が、彼の心を癒す……。
 少年は、試練に向かう。

 次回、絶対装甲エヴァ第32話『お出かけは日曜日! 中編』。

 この次も、サービスするわよぅ!






<続く>
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