アスカのちっちゃいってことは―――――

風邪引きさんっ








「んみゅぅ……」

 ちちゅん、ちゅん、ちゅん。
 やけに丸っこい雀がベランダに降り立ち、朝の訪れを告げています。

 今日もシンジ君の胸の上で目覚めたアスカ嬢。
 傍から見ると、シンジ君の寝返り1発でやたら怖いことになりそうですけど
……彼女には、別にそんなこと関係ないようで。

「んふぁ……今日もお天気ねぇ〜」

 と、自分がじっとり汗をかいていることに気付いたアスカ嬢。
 いや、朝晩のシャワーは毎日欠かさないので問題はないのですが。

「うぁ、暑いー」

 ぱたぱたと胸元をはためかせつつ、何で暑いのか考えを巡らせるアスカ嬢。
 ……と、じっとり汗ばんでいるのは自分のパジャマだけではないことに気が
付いて。

「あれ?」

 シンジが寝汗かいたから、アタシのパジャマまでじっとりしちゃったのかな
……って、シンジの汗? いやーん、嬉し恥ずかしいじゃないっ!

 別に室温が高いわけでもなく、何故に寝汗なのかは謎。
 ……と、彼の呼吸がやけに苦しそうで。

「……あれ?」






「こりゃ風邪ね、シンちゃん」

「す……すみません……」

 何故か額をさすっているミサトさん。
 そう、まるで起こしても起きないからアスカ嬢の渾身のイナズマキックでも
食らったかのようなさすり方。

「えーと……確かこの辺に……」

 ごそごそと、着ていたネルフの制服のポケットから小さなケースを取り出す
ミサトさん。
 昨夜は着っ放しで寝入ってしまったのか、力一杯よれよれなところがミサト
さんに支給されてしまった制服の不幸。

「えっとぉ……確かコレが風邪薬だったと思うけど……」

 と言って彼女がケースから取り出したのは、まるでカビでも生えているかの
ような色の錠剤。
 持ち主が持ち主だけに、シンジ君はやたらと不安そうな顔になって。

「うぁ……い、色が……」

 ちなみにこの錠剤、単色ではなくグラデーションなところが異常。

「リツコから昔もらったんだけど、今まで使ったことないのよね〜」

 見た目からして、確かに風邪は引かなさそうなミサトさん。
 ……いや、別に何とは言いませんが。

「ふ……普通の薬はないのっ!?」

「ん? あー……まぁ普通じゃなさそうだけどね、あはは」

 笑うなっ!!
 と、2人の心の中でツッコミが入ったことにも気付かずに。

「いいから飲みなさいって。お姉さんの言うことは、素直に聞くモノよっ!」

 がぼ。

「んむーっ!?」

 いきなり口中に薬を突っ込まれたシンジ君。
 それが普通の薬でもそうなっていたかは知りませんが、とにかく目を白黒と
させて。

「ああっ、飲ませたっ!?」

「風邪の時は、大人しく寝てるのが一番……さぁさ、ゆっくり寝てなさいね」

 ぴくりとも動かなくなったシンジ君。
 その身体に布団をかけてあげて、さもいいコトをしたとばかりに嬉しそうな
ミサトさん。
 それを見ていたアスカ嬢……色んな意味で愕然としてしまって。

「み、ミサト……」

 し、シンジがぁ……。
 何も考えていないだけに、余計にタチが悪い〜!

「そんじゃ、お姉さんは仕事に行って来るわねん♪」

 ……やたら明るい笑顔で2人に手を振りつつ、部屋を出て行くミサトさん。

 事態は更なる悪化を遂げただけ、
 どうやらアスカ嬢、人選を大いに誤ってしまった模様。
 後に残されたのは、ただただ呆然とするアスカ嬢と……先程までは荒い呼吸
をしていたハズなのに、すっかり静かになってしまったシンジ君。
 それどころか、気のせいか顔色もどこか土気色。
 
「しっ、シンジっ!?」

 ぴょこぱふっ。

 ……慌てて布団に飛び乗るも、彼は全く反応せず。
 シンジ君の異常に気付いた時よりも、余計にブルーな気分になったアスカ嬢
なのでした。






<続くのよっ>
<戻るのよっ>