アスカのちっちゃいってことは―――――

お掃除よっ








「アスカぁ、今度はこっちを頼むよ」

「はいはーいっ♪」

 たかたかたっ。

 冷蔵庫と壁との隙間から、ひょっこり姿を見せたアスカ嬢。
 シンジ君に言われるまま、今度はテレビ台の脇に身を滑り込ませて行き。

「うひゃぁ、こりゃまた凄いことになってるわぁ」

「やっぱり? そういう狭い場所って、掃除機とか入らないから……」

 雑巾を絞りながら、ちょっと苦笑いのシンジ君。
 一方アスカ嬢は、小さな箒を手にしていて。

 どうやら今日は、中掃除の模様。

「全くもう……アタシをこんなに働かせて、きっちり報酬はもらうからねっ」

「はいはい」

 愚痴を言いつつも、さっさっさっと掃き掃除を始めるアスカ嬢。
 狭い隙間から掃き出されて来る、もさもさな大量の綿埃。それをシンジ君が
掃除機で吸い込んでいると。

 きゅいーん……。

「あっ、いいもの発見ー♪」

「ん?」

「見て見て〜♪ 500円玉、ゲットだよぉ〜☆」

 たかたかたかっ。

 大きな硬貨を頭の上に掲げて、隙間から走り出して来たアスカ嬢。
 急に飛び出して来たもんだから、シンジ君は掃除機のスイッチを切ることも
出来ずに。

 きゅいーん……がぽっ。

「うきゃっ!?」

 狙いすましたように、足先から掃除機のノズルに吸い込まれるアスカ嬢。
 慌てて吸込口にしがみ付いた彼女ですが、抱えていた500円硬貨は掃除機
の奥へと吸い込まれて行って……。

 かん、からから……。

「ひぃぃぃっ! シンジっ、早く電源切ってぇぇぇ!」

「ああっ、アスカっ!?」

 叫ばれ気付いたシンジ君、すぐに掃除機の電源を落とし。
 恐る恐るノズル先端部を覗いてみると……アスカ嬢は、片手だけで掴まって
いる状態で。

「アスカ、大丈夫っ!?」

「ぶっ、ぶらっくほーる……」

 どうやら、危うく吸い込まれかけていた模様。
 吸込口でぐったりしている彼女を、慌てて手の上に助け出しますが。

「アスカ……?」

「ご……500円玉も楽々ぱわぁ……」

 何だかわけのわからないことを口にしているアスカ嬢、やや酸欠気味なので
しょうか。

「全くもう……いきなり飛び出して来るんだから」

 とりあえず、掃除機なんかは捨て置いて。
 掌の上のアスカ嬢を介抱すべく、シンジ君はその場を後にするのでした。






「ふぅ……」

「落ち着いた? アスカ」

 テーブルの上、お茶にお菓子と休憩タイム。
 だけどアスカ嬢は、休憩どころではないようで……。

「『落ち着いた?』じゃないわよっ!? アンタがスイッチ切るのがもう少し
遅かったら、今頃アタシは……」

 ぶるぶるっ。

 両手で自分の身体を抱きかかえながら、身震いするアスカ嬢。
 それもそうでしょう……塵や埃や糸くずや抜け毛や500円玉と一緒にもみ
くちゃにされたんじゃ、たまったもんじゃありません。

「だって、アスカが飛び出して来たんじゃないかぁ」

「ぬぅ〜っ……そんなこと言うなら、もうお掃除手伝ってあげないもん!」

 ぷいっ。

「人が小さいと思って馬鹿にしてぇ!」

「そっ、そんなことないよ……ごめん」

 そっぽを向いてしまったアスカ嬢、最早こうなるとしばらくは手が付けられ
ません。

「知らないっ!」

「あ、アスカぁ……」

 シンジ君は、溜息1つ。

 自分がぼーっとしていたのも確かだけど、アスカ嬢にも非があったわけで。
 でも、そんなことを言えば余計に彼女の機嫌を損ねるのは明白。

 ……そんなわけで。
 如何にして彼女の機嫌を真っ直ぐにしようかと、あれこれ悩み始めるシンジ
君なのでした。






<続くのよのっ>
<戻るのよっ>