へなマルチ外伝

へっぽこ浩之ちゃん 「風の谷の浩之ちゃん」









「浩之さん、浩之さんっ! ちょっと来てくださいっ!!」

 庭のほうからマルチが俺を呼んでいる。
 切羽詰ったというかドびっくりというか、そんな感じの声だ。

「どーしたマルチ、夜まで待てないのかー?」

 まぁ誰にでもそういう衝動はあるものだ。それを溜め込むのは精神衛生上、
非常ぉによろしくない。
 どれ、この俺が鎮めてやろう。

「はやくはやくぅ〜」

「よしよし、今行くぜぃ!」






 庭の隅っこにある植木鉢のあたりで、マルチはしゃがみこんでいた。
 植木鉢にはなぜか土が盛られていたが、別に何があるわけでもない。
 言ってみればガラクタ置き場みたいな所だ。

 ところであいつ、あんな薄暗いとこで何やってんだ?
 ……はっ!
 まさか夜だけでは満足できずに野外でナニしてたら堪らなくなってしまった
のかっ!? 俺ではもの足りないというのかッ!?

「浩之さん、これを見てくださいっ」

 721(なにィ)っ!?
 そんな自分の痴態をこの俺に見て欲しいだとぅ!?
 俺はそのような悪いコに育てた覚えはないぞッ……たぶん(爆)。

「マルチぃ、俺もっと頑張るから勘弁してくれよぉ」

 マルチに後ろから抱きついて懇願する俺。

「ほへ? なんだかよくわかんないですけどそれはきっと違うと思います〜」

 あ、ならいいや。……でも今日からもっと頑張ろう。

「んじゃ、何で呼んだんだ?」

「これです、これを見て欲しいんですよっ」

 そう言ってマルチは植木鉢の一つを横にずらした。
 植木鉢の底の形に、円く湿った土。
 この辺は年がら年中日陰なもんだから、いつもじめじめしてるのだ。
 んで、こういう場所にはほぼ確実にヤツらが生息している。

「……ナメクジとかミミズがのたのたしてるぞ」

 別にじめじめしてなくてもいるとこにはいるんだけどな。
 まぁ肥沃な証拠、いいことだ。

「浩之さん違います。こっちですよ、こっち」

 マルチが示したのはミミズの横にある丸い物体だ。
 しばらく観察していると、それはくりっと開き、わさわさ歩き出した。

「見てください浩之さん、王蟲の幼生さんですっ」

 …………あぁ!?

「これは由々しき事態ですよ、浩之さんっ! このままではお庭が腐海に呑み
こまれてしまいますっ」

 マルチごしに見えるそいつは、どう考えてもただのダンゴ虫だった。
 俺は近くにあった棒切れでつっついてみる。
 するとそいつは、まさしくダンゴ虫の中の王道、キングオブダンゴ虫の称号
を得るに相応しい動きを以って、くりっと丸くなった。

 ……わけわからん(爆)。

「はやっ!? なんだか可愛いアクションですぅ」

 そうか?
 ま、何度もつついてみたくなる気持ちはわからんでもないが。

  つんつん……くりりっ

「はうぅ〜、王蟲さんのいたわりと友愛がわたしの心を締め付けますぅ」

 いや、それはないと思うぞ。

「つーかそのナマモノは王蟲じゃねぇ」

「え? そーなんですか?」

「丸くなったときが団子に似てるからダンゴ虫というんだ」

「じ、じゃあ腐海に呑まれる心配は無いんですね?」

「ああ。だから特に薙ぎ払う必要も無い」

 それを聞いて安心したのか、マルチがダンゴ虫をつついた。

  つんつん……くりりっ

「はやぁ〜ん、クセになりそうですぅ」

 どうやらマルチは気に入ってしまったらしい。
 ……しかしダンゴ虫にしてみればいい迷惑なんだろーなぁ。









 夜。

「お、こんなところにダンゴ虫が」

「いやいやん、先っちょはダメなのですぅ〜」

  ぷにぷにっ☆


 ……あ、丸まっちゃった(爆)。









<了>
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