へなちょこマルチものがたり☆ばんがいへん

その3 「母の日」



「−今日は母の日デス」

 突然、セリオが奇妙なことを言い出した。

「何?」

 ソファーに座ったまま首をめぐらし、声がしたほうに視線を向ける。
 そこには、看護婦姿の二人が立っていた。

「お注射なのですぅ」

 わたわたっ。
 どこから持ってきたのか、マルチの手には注射器が。

「マルチ……注射はやめてくれ」
「だいじょぶですぅ、ちゃんと練習しましたからぁ」

 ほう。
 ……と、いつもならここでやらせてみるのだが。

 ……注射器に、「芹香ラボ謹製」のラベルが貼ってあるのはちょっと……。

「……セリオ、頼むからそれは勘弁してくれ」
「−仕方ありませんネ」

 ひょい、とマルチの手から注射器を奪い取るセリオ。

「あううっ、セリオさんひどいですぅ」
「そんなに注射が楽しみだったのか?」
「はいぃ〜」

 やや俯き加減で、上目づかいに俺のほうを見ながら答えてくるマルチ。
 その目尻に一滴の真珠を見つけて、俺、陥落。

「それなら、俺が注射してやるっ!」
「わきゃっ!?」

 無防備に近づいてきたマルチの足をとって裏返し。
 何故か無意味に短い白衣の裾が重力に負けて裏返る。

 木綿の白いパンティが、白衣の薄いピンク色の裏地に映えて……。

 うむ、よしっ!

「い、いくぞマルチっ!!」
「はわわっ、て、抵抗できないのですぅっ」

 と、その時。
 首筋に、冷たい金属の感触と、続いて何かが流れ込んでくるような感触。

「……セリオっ!?」
「−いけない浩之さんですネ」

 しまった、不覚……。
 その途端、世界がぐらぐらと揺れ始める。
 まるで俺を中心にすべてが回っているような感覚にとらわれる。

 さすが先輩の薬、効果は抜群だぜ……。





 やがて目覚めると、さっき俺がマルチにさせていたのと同じ姿勢だった。
 ただ、俺が、だが。

 尻の下から、乾いた布の感触。
 ……おしめだな、こりゃ……。

「セリオ、何のつもりだ?」
「−今日は『母の日』デス」
「ママと呼んでくださってよいのですぅ〜」

 むう、まさに、なーすがまま。



<続かないのですぅ>
<戻りますぅ>