やったらこうなっちゃったリーフ

ToHeart:来栖川綾香
「もしも速攻生徒会っぽかったら」






「はーい、浩之ぃ」

「おう」

 授業も終わってご苦労さん。
 校門前で俺を待ってくれていた綾香。

「一緒に帰ろー♪」

「おう」

「待っていたわよ、綾香!」

 そこへ現れたのは、誰あろう空手部所属の坂下好恵・彼氏なし。
 綾香のストーカーみたいなことばっかしてお前レズビアンか? だから彼氏
が出来ないんだ! とか心の中で叫んだが、勿論誰にも聞こえなかった。

「今日こそは男で腑抜けになった貴方を倒ーす!」

「あらら、決闘? 時代錯誤ねぇ。そんなの流行らないわよね、浩之ぃ」

「あ、いや俺はここで見てるから」

 2人が話している間に、きっちり10歩の間合いを取った俺。
 あんな人間凶器達の傍にいたら、それだけでミンチになってまう。
 俺がやれやれまたか、と溜め息を吐いていると。

「その勝負、ちょっと待ってください!」

 ざっしゃぁ!

 スカートを翻し、今度はどこからか葵ちゃんが飛び降りて来た。
 勿論可愛い水玉ぱんつもしっかりと目撃。今日はブルマじゃないんだ。
 履き忘れたのだろうか、俺に見せる為に脱いだのだろうか。どちらにしろ俺
は今、歴史の証人となった。
 でも上を見ると、飛び降りられそうなところは……屋上のフェンスの穴?

 ……びっくり人間大集合!
 その顔ぶれたるや恐るべし、エクストリーム女王・自然『岩』割り女・一撃
必殺『だけ』の女だ!

 下校中の生徒達も、半径10メートル程の安全圏を確保して輪を作っている。
 日常に突然訪れたある意味豪華な見世物だ。

「あらら、葵まで……私に用? それともそこの空手馬鹿一代に?」

「空手馬鹿一代って言うな――――!」

 どひゅっ。

 風を引き裂くような轟音を発しながら、坂下の正拳突きが綾香に飛ぶ。
 綾香はそれを肩の後ろに受け流しつつ、そのまま坂下の身体を担ぎ上げて。

「あ……」

「綾香てっつざんこ――――っ!」

 呆気に取られたような坂下の声が、聞こえたかどうか。
 彼女の腕を引いて、地面に叩き付ける……のかと思ったら、そのまま必殺の
『鉄山靠』。全体重・筋力を背中に集中しつつ相手に叩き付け、大きな衝撃を
与える中国は八極拳の奥義だ。

 ひゅー……どごん。

 坂下は校舎の壁に頭から腰までめり込んで、そのまま動かなくなった。
 地面に叩き付けられていた方がダメージが少なかったように思う、哀れなり。

「……さて、次は葵ね?」

 うふふふふ、と怪しい笑いを発しながらのっしのっしと葵ちゃんに近付いて
行く綾香。
 既に地球外生物だ。足が地面にめり込むような重量の生物などこの世に存在
してはおるまい。

「はわわわわ……」

 緑の髪のどじっ子メイドロボみたいな声を発しながら、青ざめて葵ちゃんは
じりじり後退して行く。やがてその足は、早足になり駆け足になり。

「逃がさん! 綾香はど――――けんっ!」

 両手を合わせ、一旦腰まで引く。
 そしてその両掌が、凄まじい勢いと威力を持って突き出されて。

 ぼうん!

 何かが俺の目の前を通過して行ったような気がした。

「はわ――――!」

 べすん。

 葵ちゃんの背中……あそこは腎臓か、に拳大の焼け焦げたような痕が。
 綾香が何らかのエネルギー波を撃ち出したとしか思えない。
 あれはしばらく動けまい、つーか常人なら死亡確定。

「あーっはっはっは! 次は誰? 誰よ!?」

 既に口から火炎放射を噴き出しそうな勢いで、綾香はのっしのっしと周辺を
ねり歩く。
 その動きに合わせて、周りで見ていた生徒達も自分達の身の危険をようやく
察知して逃げ惑う。
 ふぅ、そろそろ頃合か……。

「綾香」

「次はあんたか――――!?」

 と、綾香が振り向いた瞬間。
 俺は持っていた鞄をぶんっと綾香の顔に向かって放り投げる。

「くっ!」

 中に何が入っているかもわからない鞄、綾香と言えどもまともに食らいたく
ないと見えてガードする。
 そしてそれとほぼ同時に、俺は宙を舞っていた。
 綾香からは、俺は姿が消えたように見えただろう。
 彼女の背後にすとんと着地すると、強引に顎を掴んで振り向かせて。

「今日はこの辺で……」 

 ちゅっ……ちゅぱ、れろれろ。

「あっ……ふぅん」

 途端に綾香の身体から力が抜ける。
 同時に綾香から発されていた強大なプレッシャーも消滅して。
 そして周囲から、驚きや恥ずかしさや羨ましさを伴ったどよめきが起こる。

「終わりだ、綾香」

 ふわ、と彼女の身体をお姫様抱っこ。
 プレッシャーの消滅と共に、彼女の質量も普段の通りに戻っていた。

「あ、浩之ぃ……♪」

「おう、帰るぞ」

「うん♪」

 ぎゅっ、と俺の首に抱き着く綾香。
 生徒指導の先生がこちらを見ていたが、目が合うと速攻で目を逸らす。
 どうやらお咎めなし、さっさと帰れと言っている模様。

「さて、今日はどうする?」

「うーん、浩之の家でえっちに遊びたーい」

「よしよし」

 でも家まで抱っこするのは疲れるから自分で歩け、と綾香を立たせると。
 今まで腑抜けだった綾香が、瞬速で俺の頭の後ろで何かを受け止める。
 振り向くとそれは、矢文……綾香への挑戦状だった。

「……明日はレミィか」

 はぁ、とまた溜め息を吐く俺。

「とりあえず帰るぞ、綾香」

「うんっ」

 だきっ。

 ざわざわと、俺達の歩く先の人垣が分かれて道を作る。
 その中をゆっくりと歩きながら、俺は思った。

 何でこんな奴を彼女にしちゃったんだろう……。






<以上!>
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