あかりちゃんがんばる! 番外編

その5「私の親にもご挨拶?」








 がちゃっ……ぱたん。

 ドアを閉じた途端。
 昔から見慣れた景色が、視界に入ってくる。

「へぇ……本当に俺の家だよ」

 浩之ちゃんは私を下に降ろし、玄関のドアを開けたり閉めたりして。

「ねぇ、ひろゆきちゃん」

「を? あ、ああ。とりあえず、俺の部屋に行こうか」

 ひょい。

 あ……もう、一声かけてから抱き上げてよね。
 私にだって、心の準備ってものがあるんだから。






「さて……まずは、着るものを何とかしなくちゃな」

 え? 私は別に、このままでもいいけど……。
 だって……浩之ちゃんの制服着られるなんて、滅多にないしね……。

 元に戻ってからじゃ、きっと着させてくれないもん。
 私もきっと、恥ずかしくて言い出せないだろうし……。

「俺の子供の頃の服でも探して来るぜ」

「あっ、あのっ……」

「ん?」

 ……『このままでいいよ』なんて、言えないよぉ。

「それよりさきに、これからどうするのかを……」

「そ、そうだな」

 ……浩之ちゃん、難しい顔で考え込んじゃって。
 う〜ん……来栖川先輩がお薬作ってくれるって言っても、いつまでかかるの
かしら?

「……とりあえず、お前の両親には報告しておかないとな」

「あ、そうだね」

 お母さん達、やっぱり驚くんだろうな。
 急にこんな私を見たら、卒倒しちゃうかも。

「学校のことも何とか考えなきゃいけないし」

「…………」

 ……やっぱり、ずっと欠席ってことになるのかな。
 ちっちゃくなってる間、私は学校には行けないもんね。

「……なんだか、さびしいね」

 浩之ちゃんとも、離れ離れなんだね。






 浩之ちゃんの小さい頃の服を引っ張り出してきて。
 ちょっと防虫剤の匂いが強いけど、そこはちょっと我慢。

 ストライプのシャツに、青いオーバーオール。
 靴はさすがに残してなかったらしくて、浩之ちゃんに抱っこしてもらうこと
になったの。

「さて、そんじゃ行こうか」

「うん」

 浩之ちゃんは、玄関に鍵をかけて。
 私は、浩之ちゃんの首根っこにしがみついて。

「おもくない?」

「……ああ、重くて死にそうだぜ」

「……そんなにおもくないもん」

 失礼しちゃうわ。

「責任が、な……」

「え?」

「いや、何でもないさ」












 ぴんぽーん。

「は〜い」

 がちゃっ。

「あら、浩之ちゃん。久しぶりね……その子はどうしたの?」

「ども、おばさん。実はこの子のことで、ちょっと……」

「ま、まさか……もうあかりと子供作っちゃったの!?」

 ずるっ。

「きゃぁ」

 こ、恐いよう。
 お願いだから、私を抱いたまま転ばないでよ?

 ……でもお母さん、私とってことはないでしょ? 毎日顔を合わせてるのに。
 まぁ……他の女の子と『そういう関係』だったら、それはそれで悲しいんだ
けれど。
 やっぱり、お互いの『初めて』は……きゃっ(ぽっ)。

「顔立ちも何もかも、あかりの小さい頃とそっくり……」

 お母さんは、何か懐かしむような表情で。

 そっと、私の頭をなでる手。
 お母さんの手って、こんなに大きかったのね。

「そういえばあかりは? うちにはまだ帰ってないけど……」

「あ、あの……」

 浩之ちゃん、とってもいい難そう。
 そうだよね、いくら何でもこんな話を信じろって言う方が無理だよね……。

「……こいつが、あかりなんです」

「……またまたぁ」

 さすがはお母さん、動じてないわね。
 信じてないだけなのかな?

 よぅし。

「……へそくりのばしょは、けしょうだいのかがみのうら」

「えっ!?」

 ぎくっ。

「へそくりのきんがくは……」

「わ、わかったから。それ以上は勘弁して」

 ふふふ……お母さん、慌ててる。
 浩之ちゃんでも知らない情報だもんね。

「おかあさん、しんじてくれる?」

「ま、まぁ……本当にあかりなの?」

「……そうなの」

 困った顔で、私から視線を外すと。
 説明を求めるように、浩之ちゃんを見て。

「実は……」






「へぇ……そんなことがあったの……」

「……全部、俺の責任です」

 ち、違うよ。
 私がぼーっとしてたからいけないんだよ。

「……でも、これで私ももう少し若く見えるかしら……」

「えっ?」

「このあかりを連れて歩いていれば、まだ私も20代で通ると思わない?」

 それはちょっと無理があると思うよ?
 ほら、浩之ちゃんも答えに詰まってるじゃないの。

「……それはさておき」

 あ……あっさり話を逸らすのね、浩之ちゃん。
 お母さんもちょっと悲しそう。

「これから、どうしようかと」

「……数日中には元に戻るのね?」

「はい、必ず」

「そう……なら、浩之ちゃんに任せるわ」

「……え?」

 ……お、お母さん?

「子供服なら取っておいてあるから、必要なものを持っていくといいわ」

「あ、あの……おばさん?」

「私も忙しい身だし……浩之ちゃんとなら、あかりも嬉しいだろうし」

 つんっと、私の額をつつくお母さん。

「2人きりだからって、変なことしちゃ駄目よ?」

 変なことって、一体どうやって……って、私ってば何を考えてるのっ!?
 いやぁぁぁ、ちょっと想像しちゃったぁぁぁ!

「な、何を赤くなってるんだよっ」

「あらあら……その分じゃ、大丈夫みたいね」

 な、何が大丈夫なのよう……。
 そりゃ今まで、2人きりなんて望んでも得られない状況だったけどぉ……。

「ちょっとした予行演習だと思えばいいわ。夫婦生活と、子育ての……」

「おっ、おかあさんっ!」

 お母さん……そこまで話を飛ばさないでよ……。

「は、はぁ……まぁ」

 って……浩之ちゃん、否定はしないのね?
 ……ということは……(ぽっ)。

「それじゃ、あかりをよろしくね」

「は、はい」












 ……かくして、私は浩之ちゃんの家に住まうことになったのでした。






<続くんだよ、浩之ちゃん>
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