あかりちゃんがんばる! 番外編
その9「私の席は、特等席?」
「わわっ、何々っ? 藤田君の子供?」
「きゃ〜っ、ちっちゃい〜♪」
私が浩之ちゃんに抱かれて、教室に入ると。
当然と言えば当然なのかも……面白いものを見付けたかのように、わらっと
群がるクラスメイト達。
「浩之……僕達、高校生なんだし……」
「ええい、お前まで面白がるな」
べしっ。
「痛いよ、浩之」
もう、雅史ちゃんまで……。
「えーと、あれだ……こいつ、あかりの親戚。あかりが風邪引いたってんで、
2・3日くらいうちで預かることになった」
「ふーん、やけに説明的セリフだわねぇ」
ひょこん。
あ、志保……まだいたんだ。
もうすぐ先生が来るから、早目に戻った方がいいと思うよ。
「お嬢ちゃん、お名前はぁ〜?」
ううっ……普段普通に話しているクラスメイトにこんな話し方をされると、
何だか妙な気分になっちゃう。
「あのねぇ、あかりってゆーの」
「「かっ……かわいいーん♪」」
私が口を開いた途端、何故か沸き上がる喚声。
声を上げたのは女子だけだったみたいだけど……。
「神岸さんと同じ名前なのね」
「そっかぁ、それで藤田君が……」
私達を取り巻く人だかり、あちこちから黄色い声が聞こえて来て。
浩之ちゃんが抱いてくれていなかったら、もみくちゃにされていたかも。
ぎゅ……。
「おいおいお前ら、あかりが怯えてるだろうが」
浩之ちゃんの腕にぎゅっとしがみ付くと。
私の気持ちを察してくれたのか、周りの生徒達を威嚇……じゃなくて、牽制
してくれて。
「やだぁ、藤田君ってばぁ……優しく抱いて『あかり』ですってぇ」
「ビデオに録画しておかない? ねっ、ねっ!」
おおっ、それはナイスアイディアだよっ。
……なんて言うと、浩之ちゃんは怒っちゃうかな?
「ええい、面白がってんじゃねぇ! 散れっ!」
や、やっぱし怒っちゃったよ。
まぁいいか、周りに人がいるとゆっくり出来ないしね。
「ひ……おにぃちゃん、はやくすわろうよぉ」
「「かっ……かわいいーん♪」」
そしてやっぱり聞こえる、悲鳴にも似た黄色い声。
「『おにぃちゃん』だって! 大きいあかりにも言わせてみたーい!」
……本当は私、その『大きいあかり』なんだけどなぁ……。
「おにぃちゃん、はやくぅ」
「あ……ああ」
と、ちょっと不機嫌そうに自分の席の椅子を引き出す浩之ちゃん。
周囲のクラスメイト達を視線で散らせた後、抱っこしたままの私の顔を見て
一言。
「……お前、どこに座る気なんだ?」
「ほへ?」
……私の席は、勿論空席。
だからって、まさか1人で座っているわけにもいかないよね。
それじゃまぁ、折角だし……ねっ。
「んーと……おにぃちゃんの、おひざのうえっ」
「……勘弁してくれよぉ」
心底困ったようにそう言ったけど。
でも私を抱えたままで、椅子に座ってくれた浩之ちゃん。
がったん。
「ったく……しょうがねぇなぁ」
「えへへぇ、おにいちゃんはやさしいなー」
今回ばかりは特殊な事情。
そんな顔した浩之ちゃん。
浩之ちゃんの膝に座らせてもらった私。
軽く足をぶらぶらさせてみたけれど、全然床には届かないし。
「……落ちるなよ」
ぎゅ……。
と、浩之ちゃんが左腕を私の身体に回してくれて。
「……うんっ♪」
単に手を添えただけ……じゃなくて、ぎゅっと力が込められて。
優しくしっかりと、浩之ちゃんに抱き寄せられた私なのでした。
<続くんだよ、浩之ちゃん>
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