聖誕祭







12月24日、クリスマス・イヴ。
12月25日、クリスマス。
本来はとある一神教の教祖さまの誕生日を祝う厳粛な宗教儀式デーなのだが、国
際的無宗教国家である我が日本では、プレゼントを交換したり、ケ−キや七面鳥
といったご馳走を食べ、家族や恋人同志が年末のひとときを楽しく過ごすお祭り
として受け止められている。
…一人身の人間にとっては道行くカップルを無差別に襲いたくなる日でもある。
北半球では冬真っ盛りということもあり、雪が降れば「ホワイトクリスマス」と
して、よりいっそう恋人達のロマンチックなムードを盛り上げてくれる。


…が。


猛吹雪となれば話は別だ。
なんと今回は何十年に一度という猛烈な大寒波が襲来。
今年のクリスマスは粉雪の舞うホワイトクリスマスどころか、ブリザードが吹き
荒ぶ極寒の大地で八甲田山ごっこ?な感じらしい。
うう、大都会の真ん中で雪山遭難ごっこはしたくないなぁ。


「兄さん、何をぶつぶつ言っておられるんです?」
「あ、ああ、これから出かけようと思ってさ」
「そうですか、それはようございました。それでは光のようにパッと行って、
パッと帰ってらして下さいね。」
「そ、そりゃ無理ってもんだぞ。第一そんなことしたらアルクや先輩に失礼だ。
お前だって三澤さんとか晶ちゃんとかにそんなことされたら悲しいだろ?」
「それとこれとは話が別です!」
「まあまあ、明日は1日遠野家のみんなで過ごす、って決めただろ?明日に免じて、
今日のところは機嫌直してくれよ」
「私は不機嫌なんかじゃありません!」
「お、おい秋葉…」
誰がどう見ても不機嫌状態の秋葉は、「泥…猫…」とか、「折角の…ですのに…」
とか呟きながら、玄関ホールを出て行ってしまった。


…そもそもの発端は、2週間前のいつものお茶会で、アルクが「クリスマスって
何?」と聞いてきたからだ…と、思う。
まあ、聞かれた立場としてまともに答えたつもりなんだが…
「しーきー、恋人どうしが熱い夜を過ごすんだったらー、わたしたちも熱い夜
過ごそー♪」

…アルク、だからといって魔眼で魅了するのは反則だ。

「ダメです!遠野くんはうちのもみのツリーの下で、クリスマスカードを交換
して、それから二人で仲良く七面鳥カレーを食べるんですっ!」

…先輩、本当の国籍は何処なんですか(※参照)

「世間は世間、うちはうち!この日は兄さんには遠野家の人間がどう在るべきか
しっかりとお説教させていただきます!」

…秋葉、じゃあどうして頬を染めてるんだ。

「志貴様………あの……その……………」

…翡翠、その日からずっと柱の影から熱っぽい目で見るのは遠慮してくれ…

「志貴さーん、赤い薬と青い薬、どっちがいいですかー♪」

どっちもイヤです。っていうかなんでクリスマスに注射器なんですか。


三大勢力が死闘を繰り広げる前に必死の説得が実って、イヴはアルク&先輩と
過ごし、秋葉達とクリスマスを祝う、ということでどうにか収まった。
もちろん全員が不満を露にしたが、有馬の家に久しぶりに顔を出す、という
選択肢を提案すると不承不承ながら納得してくれた。

…ゴメン、都古ちゃん。お正月には顔出すから。


と、いうわけで、只今遠野志貴はこの吹雪の中、アルクと先輩の待つアルクの
マンション(広さ的に先輩のアパートより便利なのだ)へ出かけようとしてる
のだが…
玄関の寒さと外から聞こえる音が気力を根こそぎ奪っていくような気がする。


「…玄関を抜ければ、そこはブリザードだった、なんてね」
「あ、志貴さん、お出かけですかー?」
「うん、でもちょっと吹雪にたじろいでるとこ」
「ほらほら、志貴さん弱音吐かずに急いで急いで♪」
「わわ、琥珀さん、なんでそんなに急がせるんですんですかっ」
「だって…」
「だって?」





「クリスマスだけに急いたんさい(聖誕祭)、なんちゃってー♪」





………訂正しよう。遠野家の中もブリザードだ。







※1 クリスマスツリーにもみの木を使うのはドイツ人です
※2 クリスマスカードを送るのはイギリス人です。
※3 七面鳥を食べるのはアメリカに渡ったオランダ人です。
※4 カレー(以下略

<急げー。>
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