単発らぶらぶ小説 その53

まいん☆どりーむ








 その日、起きた時から。
 僕は、いわゆる超能力者になっていた。

 手を触れずに目覚まし時計のスイッチを押す。
 ドアを開けずにトイレの中に入る。
 フライパンに卵を落としては、燃え盛る炎を発生させてこんがり丸焦げ。
 終いにゃ空中に浮かびながら新聞まで読んでしまった。

「何だかなぁ」

 落ち着かないので、床にふわりと下り立った。
 そう言えば、そろそろアスカを起こす時間。
 お風呂の準備は既にOK。 
 この辺は、普段の生活と変わらない。

 とりあえず、目下の問題は。
 この能力のことをアスカに話すべきか、話さざるべきか。
 およそ想像もしていなかったことで悩みながら、アスカの部屋まで行く。

「アスカぁ、朝だよー」

 部屋の前から、アスカのベッドの傍まで瞬間移動。
 しまった、ノックを忘れてしまった。
 と、軽く念じてドアからとんとんと音を鳴らしてみた。
 よし、これでノックしたことになった。

「アスカ、アスカってば」

 早く起こさないと、お風呂のお湯が冷めてしまって怒られてしまう。
 いくら声をかけても起きないので、仕方なく肩を揺さぶる。

『うーん、シンジぃ……』

「え?」

 アスカの声が聞こえたような気がしたけれど、アスカの口は閉じたまま。
 起きた気配も今のところない。
 もしかして、精神感応ってやつですか?

『そっ、そこ指なんか挿入れちゃ駄目ぇ……ああん』

 妙に色っぽい声が、僕の頭の中に響く。
 思わず前屈み、僕は多感な思春期の中学生ですから。

『も、もっと……もっと気持ちよくしてぇ……♪』

 ははぁ、もっと気持ちよくですか。
 僕の妄想は膨らみます。
 それと一緒に、僕の股間も更に膨らんじゃいます。

 と言いますか、アスカは一体どんな夢を見ているのでせう。
 知りたくなった僕は、アスカの額に手を当ててみて。

『んうっ、んっ……あふぁ、シンジぃ……♪』

 アスカの官能的な声が、より強く聞こえるような気が。
 そしておぼろげに、脳内にイメージが浮かんで来て……。

「……ぶふっ」

 危うく鼻血が出そうになってしまった。
 そりゃあもう、股間もはちきれんばかりの勢いで。
 ねぇアスカ、これは中学生が見てはいけない夢じゃない?
 と言うより僕を差し置いてそんな夢見ないでよ、いやむしろ僕と。

 ……おっといけない、アスカを起こすんだった。
 ふと我に返った僕は、ゆさゆさとアスカを揺さぶって。
 如何にも眠そうに目を開いたアスカは、僕の顔を見るなり真っ赤になって。

「ばっ、馬鹿ー! 出てってー!」

 折角起こしてあげたのに、枕なんか投げ付けてくれちゃって。
 仕方ない、物騒なものが飛んで来ないうちに退散するとしますか。






 朝のお風呂から上がっても、アスカの顔は赤いまま。
 濡れた髪を拭きながら、何かを言いたそうにちらりちらりと僕を見て。

「アスカ、どうかしたの?」

 しれっと言い放つ僕。
 もしも、僕があんな夢を見たならば。
 しばらくの間、相手の顔なんてまともに見られないだろう。

「その……アタシ、変な寝言とか言ってなかった?」

「ううん、別に」

「そ、そっか。うん、よかった」

 どこか安心した風に、ほっと一息吐くアスカ。
 でも、次の僕の言葉で凍り付く。

「でも、えっちな夢は程々にね」

「……え?」

 ぶしゅう、と湯気でも噴き出るかと思う程に赤くなる。
 僕は何だか楽しくなって、ちょっとからかってみることにした。

「そうだよね、あんなことやそんなことに興味を持つ年頃だもんね」

「なっ、ななな……何言ってるのよアンタわぁ!?」

「何って、ナニしてたのはアスカでしょ?」

「なっ……」

 くらっ、とよろめくアスカ。
 おっと、と僕は念じてアスカの身体を支えてあげて。

「……え? え?」

 周囲に誰かいたのかと、くるくる辺りを見回すアスカ。
 その様子がおかしくて、僕はついついアスカの身体を浮かび上がらせて。

「ぽ、ポルターガイスト!? もしかしてジャパニーズ・タターリ!?」

 空中でじたばたともがくアスカ。
 でも、そんなことをしても床には少しも近付くことが出来なかった。
 僕はアスカの真下に移動すると、その見えない束縛を解く。
 ぽふん、と意外に軽いアスカの身体を受け止めて。

「びっくりした?」

 ふふふ、と怪しい笑いを漏らす僕。
 アスカはと言うと、驚いているやら怯えているやら。

「い、今の……アンタがやったの?」

 やっぱりちょっと怖かったのか、ふるふると震えているアスカ。
 そっと床に立たせてあげながら、僕はこくんと頷いた。

「何か今朝起きたら、今みたいなこととか色々出来るようになってた」

「……マジで?」

「マジで」

 何ならもう1回、とアスカの身体を浮かばせる。
 すると、アスカは慌てて僕の首にしがみ付いて来た。

「わかった! わかったから下ろしてぇ!」

 半分涙目になっていたので、可哀想だからすぐに下ろしてあげた。 






 結局、今日は2人して学校を休むことにした。
 僕の超能力の秘密の解明の為だ。

「……間違いなく超能力よね」

「うん、それはわかってるけど」

「アンタ、何か変なことした?」

「変なことしてたのはアスカでしょ?」

「ばっ! 馬鹿ぁ! そのことは忘れなさい!」

 怒り心頭、アスカは髪をふわふわ浮かせて怒り出す。
 ……浮いている?

「アスカ、髪」

「え? ……あれ?」

 不思議そうに、自分の髪に触れるアスカ。
 
「……もしかして、伝染った?」

「……みたいね」

 テレビの上に置いてあった置時計を、ふわふわ浮かせてみたりしている。

「あ、何か楽しー」

「でしょ?」

 最早秘密の解明どころではなく、その辺のものを浮かせたりして遊んでいる
アスカ。

「でも変よね、超能力が伝染るなんて話聞いたことがないわ」

「僕もだよ」

 もしかして新手の伝染病?
 こんな病気が世界に広まったら、それこそサード・インパクト。

「あ、わかった」

「ん?」

「これはあれよ、夢だわ。夢」

「……そっか、夢か」

 それなら全ての説明が付く。

「夢なんだから、何してもいいわけよね」

「うん、2人で同じ夢を見るってのも変な話だけどね」

 アスカは僕の手を引いて、自分の部屋まで連れて行く。

「ここは夢の中で、んでもってその中で見た夢の邪魔されたんだから……続き
をしてもらうのが当然よね」

「続きって?」

「アンタも見たんでしょ? アタシの夢」

「ああ、あの夢ね」

 思い出して、また前屈みになりそうになってしまった。

「アンタがアタシを起こしたんだし、アンタが出てた夢なんだから」

「うん」

「責任、取ってね?」

 きょるんっ、と極上の微笑み。
 うん、確かに現実世界だったらアスカはこんな微笑みは見せてくれないかも
しれない。

「うん、わかった」

「じゃ、いきなり続きってのも何だから……最初から始めてくれる?」

 嬉しそうに目を閉じたアスカに、優しく口付け。
 そのままお姫様抱っこして、ベッドの上に。

「夢なのに、何だか気持ちいいね」

 舌を絡め合い、お互いの唇の間に唾液の橋を渡しつつ。

「夢は気持ちのいいものでしょう? アタシだってさっき起きた時に、ぱんつ
汚しちゃってたし」

「ふーん、アスカはえっちだなぁ」

「何よ、知ってるわよ? アンタだって時々夜中に起き出してぱんつ洗ってる
じゃないの」

「うっ、バレてたの?」

 図らずも、恥ずかしいこと暴露大会。
 僕も恥ずかしいけれど、アスカも恥ずかしいことだろう。
 何だか秘密を共有しているようで、不思議と嬉しくなった。

「まぁいいわ、そんなこと。それより、この夢から覚める前にシンジに抱いて
欲しいなぁ」

「う、うん」

 夢の中だと言うせいか、アスカは大胆で。
 その期待に応えるべく、僕は一生懸命に頑張るのでした。






「ん……」

 目が覚めた。
 試しに枕元の時計を動かそうとしてみたけれど、ぴくりともしなかった。
 ただ、時計の針だけは正確に時を刻んでいて。

「あれ? もう夕方?」

 寝過ごしたにしては、随分派手に寝過ごしたもんだ。
 と、隣に誰か寝ているような気配……と言うか、素肌の触れる感触が。

「あれ、アスカ?」

 何とまぁ。
 気が付くと、お互い素っ裸で。
 ベッドの脇のゴミ箱を覗くと、夢の中で後始末に使ったハズのティッシュが
沢山入っていて。

「……あれ?」

 まだ夢の中なのだろうか。
 でも今目が覚めたばっかりだしなぁ。
 とか何とか。

「あふ……あ、シンジだ」

「おはよ、アスカ」

 アスカは最初、何の違和感もなく微笑みかけてくれたけど。
 しばらくして、身体中真っ赤にしてシーツをまとい。

「なっ、なっ……ななななな」

「な?」

「何で? 夢じゃなかったの?」

「わかんない。もしかして、まだ夢の中かもしれないよ」

 そう、僕が言うと。

「あ、そっか。そうよね、貧弱シンジがあんなに激しく抱いてくれるハズない
もんね」

「貧弱って何だよう」

 もぞもぞと、アスカのくるまっているシーツの中に潜り込んで。
 背中からアスカを抱きしめて、壁に寄りかかってみる。

「きゃっ♪」

 アスカの声は、嬉しそう。

「……何か、夢なら覚めないで欲しいね」

「うん、シンジもそう思う?」

 とさっ、と身体を預けて来るアスカ。
 その重みがまた心地よくて、夢のようだと思ってしまう。

「あー、でも本当に気持ちよかったなぁ……ねぇシンジ、また抱いてくれる?」

「うん。アスカが望むなら、望むだけ」

 何たって夢の中なんだから、体力なんて自由自在さ。
 と思っていると。

「あ」

「なぁに? シンジ」

 そんなに待ちきれないのか。
 僕の腕の中で身体の向きを変え、正面から抱き付いて来るアスカ。
 ふよふよ柔らかな胸の感触、正に夢心地。
 でも。

「アスカ……これ、血じゃない?」

「うわ。夢なのに何で?」

 血痕の位置からして……アスカの破瓜の血であることは、間違いなかった。

「……痛かったりした?」

「う……そう言われれば、最初は少しだけ痛かったかも」

 それ即ち、現実であったことの証。

「でもあれが現実だとすると、超能力とかはどう説明を付けよう?」

「……風邪みたいなもんだったんじゃないの? アタシにも伝染ってたでしょ」

 うーむ。
 風邪にしてしまうには惜しい風邪だったなぁ。

「詳しくはわかんないけど……まぁ、なるようになっちゃったみたいだし」

 とか言いながら、キスをせがんで来るアスカ。

「なっちゃったみたいだねぇ」

 ちゅっ。

「……ねぇ、シンジ」

「ん?」

「アタシのこと、好き?」

「うん、好きだよ。アスカは?」

「アタシも。それこそ、夢に見るくらいに」

 言って、またあの極上の微笑みを見せてくれた。

「うんっ、何か不思議な時間を過ごした感じだけど……いいキッカケになって 
くれたわっ♪」

「結局、何だったんだろうね」

「いいじゃない、夢ってことで」

「夢、かぁ……」

 抱きしめたアスカの身体の感触を確かめながら、呟いてみる。

 何が夢で、何が現実だったのか。
 そんなことは……今は、どうでもいいや。
 例えこれが夢でも、アスカとこうしていられるのなら。

「ね、さっきの約束」

「うん?」

「アタシが望むだけ、抱いてくれるんでしょ?」

「ああ、そう言えば」

 そう言いながら、アスカを押し倒す。
 きゃん、と嬉しそうな声を上げるアスカを見つめながら。

 願わくば、この夢のような時間がずっと続きますように。
 心の中で、そんなことを祈る僕なのでした。






<続きません……単発だし
<戻る>