アスカのちっちゃいってことは―――――

風邪引きさんっ 2








「……で、さっきの薬は効いてるのぉ!?」

 ばふばふんっ。

 シンジ君の胸の上、布団の上で地団駄を踏むアスカ嬢。
 いくら暴れてみたところで、シンジ君が何か反応を返すわけでもなく。

「ううっ、ミサトなんかを蹴り起こしちゃったばっかりにっ」 

 さめざめと泣くフリをしながら、シンジ君の頬にすがり付くアスカ嬢。
 傍目にも『フリ』だとわかる辺りが可愛いトコロ。

「シンジっ、アンタが死んじゃったらアタシはどーすればいいのっ!?」

 シンジがいなくなったら、ここぞとばかりにミサトがアタシを愛玩用に捕獲
しようとするに違いないわっ! それどころか、リツコの実験用モルモットに
でもされたら……。

 ぶるぶるぶるっ。

「……あー、怖い考えになっちゃったわ」

 シンジ君の顔は土気色……でも口元に耳を寄せると、小さな呼吸音が聞こえ。
 弱々しいけれど、ぜぇぜぇ荒く息を吐かれるよりは安心しているアスカ嬢。

「さて……冗談はこれくらいにして、アタシに出来ることをしなくちゃ」

 ぺしぺしっ。

「感謝ウント感激、わかる? こんな美少女が看病してあげるってんだからさ
……」

 シンジ君の頬を軽く叩いて、ベッドから飛び降りるアスカ嬢。
 ミサトさんが半開きにして行った部屋の襖、その隙間を走り抜けて。

 たたたっ……。

「……このアタシが、看病してあげるから……」






「よっこらせ、っと」

 誰から聞いたのか……お上品とは言えないかけ声と共に洗面器を持ち上げる
アスカ嬢。
 勿論洗面器のサイズは1/8、アスカちゃんハウスの備品です。

 ちゃぷん……かららん。

「ふぅ、全く……普通は逆でしょうが」

 シンジ君の枕元、聞こえるかどうかは期待していないようで。
 アスカちゃんハウスから持って来たバスタオル……まぁシンジ君にとっては、
フェイスタオルくらいの大きさもないですけど。

 ちゃぷん。

「よーいしょっと」

 ざぱぱ……じゃぁぁ。

 タオルを洗面器の氷水に浸し、冷水を染み込ませるアスカ嬢。
 そして、懸命にタオルをぎゅうっと絞り込み。

「よいしょーぉ」

 ぱんっ!

 絞ったタオルを、ぱんっと広げ。
 丁寧に何度か折りたたみ、シンジ君の額に載せてみたりして。

 ぺとっ……。

「……どぉ、気持ちいい?」

「…………」

 アスカ嬢の問いに、答える声はなかったけれど。
 微かながら、彼が微笑んだような気がしたアスカ嬢。

「……そうでしょ、当然よね」

 このアタシがやってあげたんだから、気持ちよくないハズがないじゃない。
 このアタシが看病してあげてるんだから、よくならないハズがないじゃない
のよ……。






 少し経つと、タオルをまた洗面器に浸し。
 アスカ嬢にとってはバスタオル、かなり絞り難いハズなのですが。

「…………」

 黙々と看病を続けるアスカ嬢、時々彼の頬にぴっとりくっ付いて体温測定。

「……まだ熱が下がんないのね」

 でも、熱が出るのは治りかけだから。
 もう少しすれば、きっと目を覚ましてくれるから。

 だから。

「……もうちょっと頑張るのよ、アスカ……」

 冷たいタオル……シンジ君には大したことはなくても、身体の小さなアスカ
嬢は体温をかなり奪われてしまう代物。
 がたがたと震えながら、それでもアスカ嬢はタオルの交換を続け。

 ……そして、時間だけが静かに過ぎて行くのでした。






<続くのよっ>
<戻るのよっ>