「だーむだむーだむーだむーだーむだむだーむー♪」 上機嫌そうに歌いながら、何やらごつい拳銃を振り回しているマルチ。 ……危ないから、そんなものを家の中で振り回すんじゃない。 「マルチ。何が無駄無駄なんだ?」 「これなのですぅ。このてっぽーは無駄無駄だってセリオさんが言ってたのですぅ」 無駄無駄? ……まーたセリオの奴、何か企んでやがるな。 「他に何か言ってなかったか?」 「はいぃ。これで撃たれると、ダメダメになってしまうそうなのですぅ」 ……は? ダメダメに? で、無駄? ……?? 「マルチ、ちょっと当ててみ。痛くしないでな」 「はぁい♪」 自他共に認める駄目人間たるこの俺、駄目駄目と聞いてはいても立ってもいられない。 「では、いっきまーすっ☆」 どむっ☆ ひゅん。 でんごろでんごろでん。 予想外のキックバックで、絨毯の上を転がり、廊下まで転がっていくマルチ。 一瞬のいやな予感に突き動かされて、身を伏せる俺。 がごんっ。 俺の背後で響く、重いいやな音。 振り向くと、壁に大穴が開いていた。 「…………」 全身の汗腺が開いたかのように吹き出す汗。 「あ、あうあう〜。大変なのですぅ」 「……マルチ。セリオはなんて言ってた? その銃……無駄無駄、か?」 「むだむだだって言ってたですぅ。忘れないように歌ってたのですぅ」 歌? ……だーむだむーだむーだむーだーむだむだーむー、って奴か。 なるほど。 数刻の後。 「くぉら、おっさん! 出てこいっ!」 じゃきっ。 研究所の扉に向かい、『無駄無駄』な銃を構えているマルチ。 俺が持とうと思ったのだが、どうやらエネルギーの供給の関係上無理らしい。 「3……2……1……」 「ま、待った待った!」 カウントダウンが聞こえたのか、慌てて飛び出してくる白衣のおっさん。 「そんなので撃たれたら、この研究所が壊れてしまうよ」 ……そんなもん渡したんかい。 「それはセリオのオプションパーツのはずなんだが……。ところで、藤田君。 ……セリオがどこに行ったか知らないかい?」 ……やはりあいつか。 「あ、おい、藤田君!」 「大丈夫、見当はついてますから」 そういうと、俺はマルチを小脇に抱えたままで歩きだす。 ……10メートル……20メートル……30メートル。 「……あ、あのぉ……ひろゆきさんー……」 心なしか心配そうなマルチの声。 「セリオさん……どこ行っちゃったんでしょうか……?」 ふむ。マルチが気になるぐらいだ、セリオも気になっているだろう。 「セリオ、出てこい」 俺は振り向きざまにそういうと、じゃきっ、とマルチを構える。 ほへ? という顔をして、それでも銃口を前に向けるマルチ。 「−降参デス」 ふゅん。 モーターの止まるような音とともに、特徴的な紅い髪を持った少女が現れる。 「はっ、はわわぁっ、セリオさんですぅっ」 心底驚いたような表情をしているマルチとは対照的に、あくまでも冷静に、 俺はセリオに鋭い視線を投げつける。 「弁明は?」 「−浩之さんなら大丈夫だと思ったのデス」 「……それだけか?」 「−ハイ」 「…………マルチ、撃て」 「はいですぅ」 ふと見ると、マルチの手に持たれた銃の銃口は俺のほうを……て、俺!? BANG! あ……白い……。 死ぬって、こういうことだったのか……? 何か、考えるのもだるい……。 ……あはは……。 「びどじゅぎじゃ〜〜ん!」 顔をぐしゃぐしゃにしたマルチが俺の肩を掴んで揺すっている。 これは……俺は、生きてるのか? 「−ダメダメ弾ですから、ダメダメになるだけで、死にはしないのデス」 セリオの声……? 「あ゛う゛う゛〜、よかったのですぅ〜」 身体が熱い。 ……まだ後遺症が残ってるのか? 「−恐らく、ケダモノになっているものと思われマス」 妙に冷静なセリオ。 俺は……ケダモノになった。 「ふぅ」 俺は蒸気を吹いて気を失っている二人を担ぎ上げると、風呂場へと向かった。 ……ま、ほっときゃそのうち起きるだろ。 <終わり> <戻る>