へなちょこマルチものがたり

その211「幼児体型」








「浩之さん、浩之さん」

「ん?」

「『ろりこん』って、どう言う意味ですかぁ?」

 ずがびーん。

「ま、マルチ……」

 どこでそんな言葉を? ……じゃなくて、こりゃ困った。
 まさか『はっはっは、それは俺のことさ』などと笑って済ませるわけにも。

「せ、正式には『ローリング・コンプレックス』と言ってな」

「はい」

「ローリング……ごろごろするのが好きな人のことを言うんだよ」

 我ながら苦しい解説だ。

「なるほど……それじゃ『ろりこん』道を極めるべく、早速ごろごろしませふ」

 そんなお前、女の子がロリコンロリコン連発するなよ。

「お、おう」

「わ〜い♪」

 その晩は、マルチを抱っこしながら64回転くらいごろごろした。






「ふぁ……」

 昼休み、弁当を食い終わってまったり中。
 昨夜夜更かししたせいもあってか、眠気大爆発だぜ。

 が、ふと気付くと教室中がざわめいていた。

「やっぱりそうだったのね」

「前から怪しいとは思ってたんだけど……」

 誰もが俺をちらちら横目で眺めている気がする。
 ……いや、自意識過剰かもしれん。気にしないことにしよう。

 と、机に伏せて眠ろうとしたら。

「浩之ちゃん、お話があるの」

「あ? あかりか」

 俺様はこれから放課後まで連続爆睡する予定だったのだが。

「あのね……浩之ちゃんがロリコンだって、本当?」

ぶぱ。

「……あ?」

 何を今更。
 じゃなくて、何ぃ!?

「誰がそんなことを?」

「うん、今1年生の間で噂になってて……」

 1年生……と言えば、原因はひとつしか思い当たらない。
 間違いなくマルチだ。

「あいつめ……」

 そんなわけで、俺はマルチのクラスへと足を向けた。

「でね……私も幼児体型だし、浩之ちゃんさえよければどうかなって思うの」

 なんてあかりの言葉は、さっぱり耳に入らなかった。






 マルチのいる教室に近付くと、ざわざわと大騒ぎしている気配が感じ取れる。

「おーい、マルチぃ」

 入り口から、ちょっと控え目にマルチを呼ぶ俺。

「あ、浩之さんー」

 クラスメイトに囲まれていながらも、すぐさま俺を発見するマルチ。
 席から立ち上がり、俺に向かって猛然とダッシュして来て。

「今晩も『ろりこん』するですぅー!」

 ぱふっ☆

「……やっぱりお前かぁ!」

 マルチをぺしっと叩きながら、俺は大きな溜め息を吐く。
 こんなことなら、ちゃんと説明して釘を刺しておくべきだったぜ……。

 この後、周囲にどうやって何を言い訳したものか。
 それを考えると、やっぱりまた溜め息が出る俺なのであった。






<続かない>
<戻る>