へなちょこマルチものがたり

その215「しり取りのススメ」








「あーあ、何か暇だなぁ」

 いや、マルチをいじり回しているのでそう暇なわけでもないが。

「まうまう、それでは日本古来の暇潰し『しり取り』でもしませんか?」

 喉をなでられて上機嫌のマルチが、そんなことを口にした。

「いいのか? 俺は強いぜ?」

「望むところなのですぅ」

「おう、んじゃ30秒言葉に詰まったら負けな」

 かくして、俺とマルチのしり取り合戦が始まった。

「んじゃ最初は俺からな。マルチ」

「ちょいやー」

「自棄」

「けりゃー」

「ヤンバルクイナ」

「なりゃー」

「躍起」

「きゃー」

「ヤクドナルド」

「どりゃー」

「…………」

 いや、同一の言葉を……しかも単語の数が少ない言葉を相手に言わせるのは、
しり取りの常套手段だけどさぁ。

「ほえ? もう降参ですかぁ?」

「や、安売り」

「りゃりゃりゃ〜」

 ……何なんだこいつは。
 『しり取り』って、こんなんでもよかったのか?

「やっとこ」

「こりゃー」

 ……駄目だ! こんな擬音しか言わない相手に、まともなしり取りが出来る
かってんだこん畜生!

「柔らかい」

 さすりさすり。

「……って浩之さん? 何故にお尻さわさわするですかぁ?」

「うるせえ! お前にまともなしり取りを期待した俺が馬鹿だったよ!」

 つーわけで、俺はマルチの尻を取ってやることにしたわけで。
 ついでに駄目押しとばかりに、濃厚なディープキスを1発。

「はふっ、んむっ……」

 至極自然な流れとして下着の中に手を滑り込ませると……マルチは苦しそう
な吐息を漏らす。
 俺は構わず、キスを続けながらぷにぷにぽよんとしたなだらかな胸を触り。

「んっ、ちゅぱ……はむっ」

 マルチがその気になり始めた辺りで、やっと口を離すと。

「ほい、30秒ルール。俺の勝ち」

「はうっ、浩之さんったらズルいのですぅ!」

「負けたら罰ゲーム。これ勝負の基本」

 言いながら、マルチのぱんつを脱がす俺。

「……いや待てよ、このままマルチを放置するのもそれはそれで罰ゲームに」

「ああん、浩之さんの勝ちでいいですから放置だけはお許しをぉ〜」

「ふふふ、愛い奴よのう」

 切なそうに抱き付いて来るマルチを、俺は静かに押し倒すのであった。






 後日談。
 擬音は駄目、と念を押して再勝負と相成ったのだが。

「しり取り」

「り、り……陸戦用モビルスーツ」

「椎間板ヘルニア」

「あ、あ……愛するひっろゆっきさ――――んっ☆」

 だきっ。

 どうやらマルチの中では、負けイコール罰ゲームイコールなでだきふに直行
コースと方程式が出来てしまったらしく。
 こんな感じで、いつまで経ってもまともなしり取り勝負は出来ないのであり
ましたとさ。






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